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「さーて、今日も良い天気で何より!」
体を伸ばしながら太陽の光を浴びれば気分爽快だった。
冬の空は澄み切っていて綺麗だ。
遠くの景色さえ全て見渡せる気がする。
そんなことを考えているとインターホンが鳴った。
「はーい」
返事をしてドアを開ける。
目の前には女の子、というかお隣さん。
「どうかした?」
俺が訊くと、お隣さんはふわっと笑った。
「落し物ですよ」
そう言って差し出してきたのはハサミだった。
随分汚い子ども用のハサミ。
見覚えがない俺は「誰の?」と尋ねた。
すると「もちろん貴方のです」と言われた。
「見覚えがないんだけど…」
「そんなはずはないです」
お隣さんの顔から笑みが消えた。
瞳には俺が映っていた。
そしてお隣さんの口が開いた。
「だって、貴方はこれで人を殺したでしょう?」
お隣さんはまた優しい笑みを浮かべて続ける。
「この汚れに見覚えがないだなんてそんな馬鹿な。貴方が汚したくせに。どうして忘れたふりをするのですか?」
ハサミは赤黒く汚れていた。
「そんなんじゃ殺されたほうは堪ったものではありませんよ」
お隣さんがハサミを握るようにして持ち直す。
俺は声が出なかった。
「私の両親に謝ってください」
お隣さんが腕を振り上げ、ハサミが光を反射させた。
笑う。お隣さんは笑う。こんなときにも優しく笑う。
ハサミが迫ってくる。
「謝れば許してあげますから」
それが最期に聞いた言葉だった。
「となり」
(すべての人が、そこに住む理由を持っているんですよ)
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