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ガタンガタンと電車が走る音が誰も居ないホームに響く。別に人気が無い駅とか潰れる寸前の駅とかいう訳でも無い。どちらかというと昼間の人の数は凄い。東京には負けると思うが、結構良い勝負してるのでは?と思うくらいだ。
「お嬢ちゃん乗るのかい?」
背後に現れた老人に驚くこともなく、私は淡々と答えた。
「乗るわ。乗らなきゃいけないんだもの」
そして電車が目の前で止まった。ドアが開く。
「それに乗ったら此処には戻れないよ?」
「知ってるわ。私だって考えて決断したことよ」
「……後悔は無いのかい?」
「あるわよ」
「だったらどうして?」
「どっちでも後悔するからよ。乗っても乗らないでも後悔するなら…私は、乗ってみて後悔した方が良いと思ったの」
「その先に何があるのか分からないのにか」
「人生なんて先が分からないから面白いのよ。未来が分かってしまったらつまらなくて…死にたくなるわ」
「ほぅ。死にたくなる、か」
クックックッ…と老人は不気味に笑った。
「お嬢ちゃんらしい答えだな」
「そうかしら」
「あぁ、実に面白い。そんな言葉を今になって聞く日が来るとはな」
「そうね。そう考えると面白いかもしれないわ」
私はニヤリと笑った。
「でも、もう死ねない身だったら……尚更、何が起きても怖くないわ」
「死ぬよりツラいこともあるのではないか?」
「……無いわ」
私は言った。
「死は無と同じ。無より怖いものなんてこの世には無いわ」
「…あの世なら?」
老人の不気味な笑い声がまたホームに響いた。
「だから行くのよ。この電車で」
「この先にあの世は無いぞ」
「じゃあ何があるの?」
「あるのは……地獄だ」
「へぇ」
私の笑みが深まった。
「地獄っていうのは、何ていう天国なのかしら」
それを聞いた老人は大口を開けて笑った。声が反響して、まるで何人も居るみたいだった。
「お嬢ちゃんは最高だ。今まで見てきた奴らで一番面白い。…だったら乗れ。そして地獄の果てでも見てくるんだな」
「あら、見送りの言葉にしては随分な感じじゃない?」
「そんなことは無い。ちゃんと餞別くらいにはなっただろう」
「…そうね。冥土の土産には良いかもしれないわ」
「また洒落にならんことを」
「本当のことよ」
そして私は電車の中へ足を進めた。乗客は…私だけだった。
「良い旅を。お嬢ちゃん」
「ありがとう」
そしてドアがゆっくり閉まった。もう戻れなくなったのだ。
私は口パクで老人に言葉を残した。
老人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい表情を浮かべた。
そうして電車は発進し、老人の姿もホームも見えなくなった。
トレイン
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